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愚人正機

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G氏賞選評 その四


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どうも

 

掲載が遅れがちですいません。

 

G氏賞選評のラストは、対照的な二作の選評です。

 

 

14、

『テーブルに水滴』 高村七子

アウェイ感ある飲み会やいぐさの香

とりあえずビール以外を頼めない

取り分けるサラダやひとつずつトマト

烏賊刺や知らない人の噂とか

クーラーの強すぎる席竜田揚

討論に加われぬまま食む胡瓜

個室てふ簾で仕切られただけの

 

〈アウェイ感ある飲み会〉という具体的なものからはじめ、〈個室〉という空間の句で締めているところ、二句目から五句目を食べ物の句を連続して置いているところは工夫されていて良いと思う。個室というのは簾で仕切られているだけで、本当の〈個室〉は人間関係のなかにこそ存在するということを語った連作である。だが、つまらない。〈アウェイ感ある飲み会〉がテーマの連作かと思うが、やや表現が率直・単調・単純すぎる。だから、共感はできるが、共感しかない作品にしかならない。こういうものを詠むにしても、もう少し醜いもの、異常なものとして描写することはできないだろうか。〈アウェイ感ある飲み会〉に対する怒り、憎しみが足りない。まあ今の時代、こういうの長嶋有のつくるような俳句がウケるのだろうが(佐藤文香はお友達感覚で長嶋程度の作品を『天の川銀河発電所』に入集させているが、ああいうのを入集させてしまうのが佐藤の限界であると思う)、そんなもんはいいかげん滅んでよかろうと思う。もう一、二段階表現の技術を進めてほしい。五句目〈クーラーの〉は強いクーラーの下で乾いて冷えてゆく竜田揚と、場になじめない主体の姿がうまく重なっている。三句目は〈ずつ〉は〈づつ〉にしたほうがよいでしょうね。

 

全句駄句とし、-5点×七句で

持ち点10点-35点で

 

【計】-25点

15、

『海水にふれる』 谷村行海

春の暮窓に陰毛だつたもの

「顔」といふ渾名の男ビヤホール

捕虫網去年の羽と足残り

完璧なじゃがいもを買ふ都庁前

あの女と性器は違ふ雪だるま

海水にふれる前科のある俺と

冬草よ軍艦島の花街の

 

 普段の生活で、これはこういう場所、こういうもの、というふうに認識しているモノに、異質なもの(それは日常の、別の領域にあるものにすぎないが)を紛れ込ませることによって、日常的な景にヒビを入れている。〈陰毛〉、〈「顔」といふ渾名〉、〈去年の羽と足〉、〈完璧なじゃがいも〉、雪だるまの〈性器〉などが、ヒビを作り出す。二句目〈「顔」といふ~〉は、〈「顔」といふ渾名〉の謎によって、読者はかえって〈男〉の顔を想像することができない。真っ黒い顔の男をどうしても想像してしまう。ビヤホールという賑やかな空間にそのような存在がいる不気味さが良い。四句目の〈完璧な~〉は、ぞっとするような美しさがあり、独特の雰囲気をもつ建物である東京都庁(私は新宿は大嫌いだが、あの建物は好きだ)に対して〈完璧なじゃがいも〉を置く。ヒビをめくれば、向こうには暗黒がある、というのが、この連作の作者の伝えたいことであると私は受け取った。三句目の〈捕虫網~〉の句はそれらの句とはまた違う乾いたリアリティがあり、評価できるが、〈羽〉は〈翅〉のほうがよかったと思う。

 

二句目、三句目、四句目は0点。ほか四句は-5点

持ち点10点+0点-20点で

【計】-10点



みなさん、応募してくださり、ありがとうございました。また、応募に際し、メッセージを寄せてくださった方、よく読ませてもらいました。

 15番の作者の方からは
「久留島元氏とのメール対談、拝読しました。俳句村など、非常に興味深い内容に思いました。それを踏まえたうえで、ここで選者・高田獄舎氏を褒めたたえることは行いません。仮にここで氏を褒めれば、「獄舎村」に近いものが形成される可能性をはらんでいる気がしました。氏を褒めれば、五点分の加点をもらえる可能性があるようですが、こびへつらって加点をもらうのであれば、それが最も唾棄すべきことだろうと私は判断しました。なので、応募フォームのここで獄舎氏を褒めません。代わりに獄舎氏に質問をしたいです。私はこれまで栗山千明氏のような女性が好きでした。ですが、最近になって、仁村紗和氏にも惹かれるようになりました。そこで、お聞きしたいのですが、選者の獄舎氏はどちらがタイプですか?」

というメッセージをいただきました。
どちらもタイプではありません。私は益若つばさ氏以外の女性にはあまり興味はありません。

ほか、受賞者の田中氏は

「G氏の作品から感じたのは「世界が規定する流れに身を任せず、全ての具象が本来依るべき根元的なもの(以後、「力価」と呼ぶ)を反語的に叫んでいる」という点だ。読者の既成概念に絶えず揺さぶりを掛け、目覚めを促す力のベクトルが芯に座っている。俳句という短詩により読者の精神性を揺さぶる観念を提出することは非常に困難な作業であり、大部分の作者が諦める性格のものと感じるが、G氏は際立った造語(ナチス症候群、矛盾独房、毒存在など)や暗喩により巧みに一句を成立させる。

打電する鶴アートより腐臭
 芸術の表面を捲ると「美しいはず」の自己を伝達することに必死な存在が滑稽にも現れた。芸術が承認欲求に隷属した結果生じる「腐臭」。芸術は承認欲求とは無縁の営為であるべきだ。芸術を行うものが本来持つべき力価を要求している。「根源の人の背後に大白鳥」句からも白鳥が力価の象徴であることが読み取れる。

コンビニの世紀コンビニで母殺され
 「母」は「母殺して精神火山へと歩く」と併せて「与えられた詩的母体」の象徴だと読んだ。自ら意識的に獲得した個性ではなく、求めずとも成長一般の中で具備できる詩的源泉。そこに甘えた作品は陳列され次々と廃棄されていく。なお、発表時期は違うが「人は卒業蛾を踏み肉を喰いつづけ」からは「母」を超克した自意識の目覚を感じた。

ゼリーは夜食で『北の国から』は不要なはずだ
 ゼリーは一般的な夜食には不向きだ。しかし、それを夜食と確信する状態からは、既成的な価値観から解放されつつある人物像を思わせる。そのような人物には既成的な感動ドラマは不要だ。

蒲公英に無限軌道はためらいの褒美
 慎ましさを隠れ蓑にした「ためらい」は美徳ではない。生きているなら綿毛であれと!というのは少し言い過ぎかもしれないが、そこに安寧するなということだろう。表現者が持つべき力価を叫んでいると感じる。

向日葵の美知るときナチス症候群
 向日葵が一部の汚れもなく咲き揃う風景を確信した瞬間、その精神は不惑の純潔主義に陥る。不揃・不規則であることが自然本来の美しさではないだろうか。安易な美しさを創造することは不治の病と隣り合わせだ。

青年として描く炎の下の月なども
 月と炎の上下関係が逆転し、月は太陽光ではなく炎光に晒される。これは自分自身にこびりついた世界認識に対する反逆だ。また、主体は「少年」ではなく「青年」である。反逆がより自覚的・意識的な状態にあることが伝わる。

定価の自由と川べりに立つ毒存在
 価値を定める自由が拡大し、自ら定めた価値に安寧できる世界。その世界に続く水脈から、覚醒のための劇物を流し続けるというマニュフェストだ。これがG氏の「血を送り続ける」ということなのだろう。なお、同種と感じる句に「詩の食べログへ急降下する善意の蜻蛉」がある。蛇足で申し訳ないが「蜻蛉」の「善意」に対する納まりの良さにG氏の言語感覚を感じる。

父か保持する母性の下で縮まる平成
 その母性は我々をコントロールする道具として万端準備された合目的な母性であり、家畜の餌のようなものだ。中毒になれば脳が萎縮し自意識は永遠に混濁する。

矛盾独房に雑務からひきぬく殺意
 矛盾独房という言葉が見事。そこは独房だが出入自由で快適だ。だが一度入房すれば代償として自意識に目覚める機会を失う。なお、「雑務から」とは無目的な生活をすればする程、容易にその巧妙な殺意に絡め取られてしまうので、普段から意識を高く保つ必要があるということだと捉えた。

火傷が原点の連中さわぎ汚れる階段
 他人から与えられた偶発的なマークを拠所にする。それは自分自身で自己を定義し、無限に続く階段を登り続ける者からすれば、踊り場で停滞した幼児的集団性だ。傷は自らの意思で体に刻め。傷を負いながらも前に進め。

分解された魚・虫・鳥帰省の夜
 コンクリートタウンにはない生命本来の宿命を叶える産土。作者が生命に求める根元的な有り様が宿された場所だ。グロテスクさが昇華され静かな喜びと安らぎを感じる。また「天命として籾とアスファルトの寝覚め」からは、掲句の産土を知るからこそ、実生活に軋んでしまう作者を感じる。

生肉にように顔面ゆるみ米食う火葬場
 人間の奇妙な風習の中、誰もが一度は感じ、即座に封印する感情がある。その仄かな感情の歪みを正面から見据え見事に表現している。生肉は死んでいる。自らの感情から目を逸らすことは、その時点で生気を失うことを意味する。

 以上、特に気に入った作品を揚げた。G氏の作品からは「世界から貰う」のではなく「世界を創る」という姿勢を強く感じることができ共感が持てる。G氏の言葉にはせめぎ合いから噴出した焔が宿っている。私自身も、少し性質は違うかもしれないが、自らの言葉に焔を宿したいと思う。

水生の焔こぼれるボリウムよ 田中泥炭」

というとんでもなく長いメッセージでした。こんなに長いメッセージは想定しておらず、驚きました。やりすぎではないかと思います。


今回、受賞できなかった方には研鑽を積み、次回も応募してもらいたいと思います。

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来年1月12日夕方、都内にて「春殴会」を開きます。近日中に詳細を発表しますが、参加申し込みはもうできます。メールフォームにてご連絡ください。

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