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愚人正機

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第一回G氏賞選評 その3


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 少し忙しく、書けなかった。待たせてしまって申し訳ない。

 

 最近思ったことだが、〈地方〉とか〈中央〉というものにとらわれるのは、まぁそのほうが都合がよいだろうし、仕方ないかもしれないが、そういうものにとらわれた時点で敗北だと思うので、私はこれらの価値観に見を置くことを拒絶する。

 だいたい〈地方〉がなんなのだろうか、(〈地方〉で俳句を書いているとしても、)〈地方〉で俳句をやっていることをアイデンティティとすること、それは悪しき安住ではないかと思う(そのようなみじめなアイデンティティがなければ、俳句を書くことができない、注目してもらえないというのなら、俳句などやめてしまえ)。〈地方〉など焼き払えばいい。ついでに〈中央〉も焼き払っとけ。自分がいる場所の意味は自分で決めるべきだ。自分が俳句を書く場所に、自分だけの意味をもたせなければならないと私は思う。〈地方〉だから、〈中央〉だから、〈地方〉でも、〈中央〉でも、そのような「甘え」は平成のうちに終わらせておけよと思う。それを可能にする武器はいくらでもあるだろう。

 

 

11、

『ルール』 鯉太郎

もどかしき君の右折や雲の峰

親友の旦那と茅の輪くぐりけり

黒南風を奥目ばかりが疾走す

蟬の腹百年たてば寝返るか  

ルール上問題のない水着かな

実家発つ百足虫らしきを見たと告げ

かなかなやユニホーム返せずにいる

 

 四句目以外は取るに足らない。詠んでいるものも、それを表現する方法もつまらない。世界の混沌に飛び込み、自分にしか詠めないものを探求していただきたい。一句目「もどかしき」、二句目「親友の」、五句目「ルール上」(表題の句がこんなにつまらないのは良くない)、六句目「実家発つ」、七句目「かなかなや」は誰でも詠める作品だろうと思う。こういうものに私は価値を置かない。これらに比べると三句目「黒南風を」、四句目「蟬の腹」は見どころがある。三句目は≪奥目≫という言い方と、≪ばかり≫が景が多少ぼやけてしまうところ気になりはしたが、≪奥目ばかり≫が≪疾走≫するという表現にはやや圧倒された。≪黒南風≫を用いているのが良く、≪疾走≫のイメージが梅雨の風雨を想像させなくもない。四句目は≪蟬の腹≫が≪寝返る≫ことに≪百年≫の時間を見た一句。≪百年≫というのが良い。千年だと、千年後の蝉の姿が想像しにくいが、この句は百年だからまだ蝉が風化した感じが伝わる。上五を≪蟬の腹≫としたのも、具体的な蝉の種類を書かれるよりかはよっぽどシンプルで、乾いたようなしっとりとしたような微妙な手触りの蝉の質感がダイレクトにわかる。不幸なのは、『ルール』のなかで、このすばらしい句の世界観が際立ちすぎて、連作としてのバランスが崩れていることだと思う。

 

 三句目は0点、四句目は5点。一句目、二句目、五句目は申し訳ないが-10点、それ以外の2句は、それぞれ-5点。連作としてもいま一つなので-5点。

 持ち点10点+0点+5点-30点-10点-5点で、

 

【計】-30点

 

12、

『朝三暮四』田中目八

俳人の勝手や飛ばぬ秋の蝶

生き様は後で読むなり金魚売

金輪際魂と成らずや黒揚羽

まんじりともせずや春は塗潰す

てふのはね捥いでrealぞ死に給へ  

こがらしの後追ふ者の易かりし

暗黙知たれがころしたふゆのてふ

 

一句目、三句目、五句目、七句目と蝶の句を置いている。自然とそれら蝶の句に注目させられたが、どの句もあまり良くない。一句目「俳人の」は俳人への憎しみが足りないから一句が平凡なまま終わっている。三句目「金輪際」の≪金輪際≫は不要だし、ダサい。五句目「てふのはね」は≪死に給へ≫がどこに向けられた言葉なのか摑みがたい。≪てふのはね捥いでrealぞ≫までは、蝶の翅を捥いだときの感覚としてはとても面白いし、「リアルぞ」ではない≪realぞ≫という措辞にはゾッとさせられるものがあり、アルファベットを用いたのは良い試みだったと思う。七句目の「暗黙知」、三句目と同じでダサい、≪暗黙知≫を別の言葉で言い換えるなどしてなんとかしてほしい。≪たれがころした≫というのもダサい。あんたが殺せばいいんだ。

二句目「生き様は」は≪生き様≫がダメ。ここまで書いて、この連作の作者は上五に決め手となる言葉を置きたがるように読んでいて思った。そういう句の作り方をしたいなら好きにすればいいが、置く言葉がどの程度、一句のなかで詩の言葉になることができるか、気を付けないといつまでも俳句愛好家のレベルですから。最後に。四句目「まんじりとも」のリズムの悪さ、これには腹が立ちます。

いろいろ書いたが、連作のなかで、これは本当にやめてくれと思うような句はない。連作としてのまとまりがある点も良いと思う。

 

全句駄句とし、-5点×7で-35点。

持ち点10点から35点ひいて、

【計】-25点

 

 

 

13、

『逢へなければ』  若林哲哉

星涼し四つに折りてラヴレター

夕立へあかるく歌ふ喉仏

くちびるを離せば花椎の匂ひ

汗の香の膝に頭をあづけけり 

泣いてゐて蛍のやうな君だつた

梅雨明の陽よ撫でかへす手の甲に

くちなはや君と逢へなければ狂ふ

 

新海誠が書いた、ふわふわしたガキの恋愛がテーマの連作か? 目立った瑕瑾はないが、見え透いた情緒が気に入らない。一句目はおもしろくない。〈四つに折〉る〈ラヴレター〉は自分が書いたものか、もらったものか、そこがブレてしまうところがもったいない。私は、このラヴレターは作中主体が書いたもの、しかし渡せなかったもの、そういうものとして受け取ったが、〈折りて〉というのがなんともつまらない。もっと雑に扱えばいいのに。〈星凉し〉は意外性に欠ける。二句目は〈あかるく〉が不要だと思う。〈夕立〉と〈あかるく歌ふ〉というのも狙いが見えていて平凡だ。三句目は佳句だと思う。独特な〈花椎の匂い〉がこの句に描かれている人間同士の距離感をも伝えてくれている。〈離せば〉としているのもしみじみとしていて評価できる。四句目は駄句。見え透いている。五句目は、なにが〈蛍のやうな〉だ、と思う。相手を泣かせておいて、自分だけはきれいでいようとするつもりか。六句目は繊細なものを読みつつ、愛を持った一人の存在を強く感じさせる力強い句であり、評価できる。〈梅雨明の陽よ〉と強いイメージを読み手に与えつつ、〈撫でかへす手の甲に〉という人間愛への誘導。〈撫で〉るのではなく〈撫でかへす〉という行為が句のなかで美しい。〈撫でる〉だと新海誠だが、〈撫でかへす〉というしつこさ、それが濃密な関係を浮かび上がれせていて成功だと思う。七句目は駄句。〈君と逢〉っているときこそ狂え。

連作としては、〈ラヴレター〉の句ではじまり〈狂ふ〉で締めるのはおもしろいと思う。ただ六句目が受け取れるイメージからすると、いきなり七句目で〈逢へなければ狂ふ〉というのは唐突すぎる気もする。

 

 

六句目は+5点。三句目は0点。(五句目は-10点にしようかやや迷ったが、)ほかは-5点。

持ち点10点+5点+0点-25点で、


【計】-10点



つづく 

次回でラスト。
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