FC2ブログ

愚人正機

ARTICLE PAGE

第一回G氏賞選評 その2 

1506076402790.jpg



7、

『蝶と化す』 抹茶金魚

鉄柵を滅するごとく葛咲けよ

梟の鳴いて従僕の悦び

脊椎は鎧の起こり冬薔薇

もう他のものにはなれず蝶と化す

ゆまりする夢の愉楽を暑気中り

金魚死にこころのままに食べたこと

君はゐるどこにでもゐる秋の蝶

 

硬い言葉を用いているが、生命の息遣いが感じられる不思議な作品。それぞれの句から光の抑えられた、夜の森、夜の園、夜の部屋といった情景が思い浮かぶ。読んでいて楽しく、テンションがあがった。一句目「鉄柵を」の《滅するごとく》は強い言葉だが、《葛咲けよ》の葛への注目によって大げさになりすぎず、味わいがある。三句目「脊椎は」は《鎧の起こり》という表現のおもしろさ、巧みさ、発想を高く評価できる。体の内部にあるものを鎧の起こりであるとまで言うことにより、《脊椎》が強烈なまでに存在感を増す。《冬薔薇》は、紅色、あるいは白色が筋肉や骨を連想させ、また、動的な《脊椎は鎧の起こり》に対して静的なものとして配置されている。適切な季語と思う。七句目「君は」は一瞬斬り捨てかけた(「君」なんて言葉を使う句は大抵バカげたもので読むに値しない。)が、《どこにでもゐる》というのは、これは《君》が他者と交換可能であるということだから、《君》に対する激しい失望そのものではないかと思い、拾った。

 マイナスとしたのは二句目「梟の」で、《鳴いて》も《悦び》も雑だと思った。しかし目立って雑なのはこの句くらいである。

 

 三句目は+5点、二句目は-5点、一句目と七句目句は佳句として0点。ほか三つは、悩むのだが、駄句の範疇とし、-5点。

持ち点10点+5点-5点+0点+0点-15点

 

【計】-5点


8、

『第二幸福論』 八鍬爽風

うすぐらく糖衣をほどく舌すずし

葉柳のこみち喧嘩はたけなはに

祭壇は神亡きまゝに夏至を終へ

蠍座に祖国は遠し畑を去ぬ

飼ふやうに人魚を描きて秋津をころす

電飾の絡まる椅子に至上の鬼灯

風絶えて九月君は流行りのひと

 

『第二幸福論』は非常に不幸な人間が書いた連作だろう。どの句にも並々ならぬ屈折がある(もはや屈折を超えて、読んでいるとこちらが屈折にハッキングされているようなかんじすらある。五句目「飼ふやうに」とか)。しかしその屈折が、一句にうまく収まっているかどうか。一句目、作中主体の気分を反映させたような《うすぐらく》と、しかしそれに反するように《舌すずし》が置かれているはおもしろい。糖衣だから錠剤かチョコレートか、どちらにせよ、一句目にこの句があるから連作の空間に入り込める。主体が幸福なのか不幸なのかわからない、ぼんやりしている、そういう句から、連作『第二幸福論』ははじまるのだ。この連作のなかでは、この句が最も良いものだと思う。

しかし二句目「葉柳」が甘い。連作全体の雰囲気に合わないし、《喧嘩はたけなはに》は無駄の多い表現。三句目「祭壇は」の発想は面白いが、《神亡きまゝに》も、この中七を祭壇の描写に変えたほうがより生々しい世界を展開できただろう。五句目「飼ふやうに」の《秋津をころす》、六句目「電飾の」の《至上の》も、ほかの部分は面白いだけに、雑な表現なのがもったいない。勘弁してほしいのは七句目「風絶えて」の《流行りのひと》という措辞。いくらなんでもこれはダサいからなんとかならないか。よい発想を技術で殺してしまってはならない。

 

一句目は高く評価し、+5点。七句目は-10点。ほかは駄句とし、5句×-5で-25点

 持ち点10点に+5点-10点-25点で

【計】-20点


9、

『グノーシスの再生』 櫻井天上火

のちほどや雌狼は短い夜

アルザスにつがいとなれぬ重力かな

畳に座す王のミキサーに示される毀損

非幾何であればレスボスの*(アヌス)にさきだつ軍服

現世ロゴスの閏に進化論の侍女を待つ

コロンの半抽象に李白はゐる 有罪の転倒

Albatrossの影に女は油絵である

 

タイトルが示すとおり、〈異端〉がテーマなのではないかと思いながら読んだが、もっと広く世界史的な視点をもった連作だ。肉体が、他の物質・物体と絡み合うような世界観が展開されており、さらに作者は一句のなかでモノの価値を転倒させている。イメージは豊富であり、読んでいて飽きない。

一句目「のちほどや」は、≪のちほどや≫が攻めているだけに、≪雌狼は短い夜≫が平凡すぎやしないか。どこかちぐはぐな句だと思う。二句目は地政学的に特殊な位置にあるアルザスを詠み込んだ句としては、納得のいくものだと思う。≪重力≫とはドイツ・スイスなどの国(もっと古い、中世の国かもしれない)のメタファーか。だが、あまり面白くはない。五句目「現世ロゴス」は≪ロゴスの閨≫という表現が楽しい。ただ≪現世≫はいらないし、≪進化論の侍女を待つ≫も、一句を激しくしすぎだ。≪侍女≫は、この言葉が重要ではないのなら≪女≫に留めてはどうか。

三句目「畳に」の≪畳に座す王≫の≪王≫から冠を奪い取り、王のミキサーを≪毀損≫が示されたものとして、はっきりと価値を転倒させるようなイメージは良い。七句目「Albatross」は≪女は油絵である≫がやや冗長だが発想は面白い。

 奇想を一句にまとめるのは苦労する(だから、物好きな俳人以外はそれをあきらめる)。この連作が書かれる過程でも、きっと何度も書き直した句が多いと思う。四句目の≪*≫みたいな記号を駆使したり、場合によっては多行にしたり(この作品の作者は、多行形式をぜひ試してほしい)、工夫してやっていってほしい。ものになれば面白い。

 

三句目「畳に」、七句目「Albatross」は佳句としてそれぞれ0点。他は駄句として5句×-5点で-25点

 

持ち点10点から25点を引いて、-15点。

 

10、

『思念体』 田中泥炭

ししむらの声を曳きゆく夕つつじ

この未知はしんに幼し円座にい

先人や子宮のごとく梨ひとつ

おおどかにいまわの雁へかたむけり

かわほりやヒトに刹那のよすがあり

狼がシェアされてゆきしんのやみ

水生の焔こぼれるボリウムよ

 

 この、一切の油断がない連作は、一度読んだだけでは点数をつけることができなかった。最初、≪ヒト≫や≪シェア≫といった語に対してどう評価すべきか戸惑ったし、この七句すべてが句に対する評価をはじき返す力をもっていたからだ。数度読み返し、悩んで、点数を付けた。その点数が今回の応募作のなかで最も高いものとなり、私自身この作品を第一回G氏賞の受賞に値するものであると強く認め、納得し、受賞を決定した。

 

 ギリギリだと思う。この連作は読み手を混乱させ、揺さぶる。しかし読みきってみると、読み手の脳内に確実にイメージを残す。異様で、美しいイメージを。その〈危うさ〉が心地よい。それなりの力量がなければ、鴇田智哉の句のようにつまらないものに陥るところを、この連作の作者は見事に歩みきって見せた。

 

 一句目「ししむらの」。大きく開いた躑躅と肉叢の声、地獄か天国かわからない、夕方の異様な空間。肉体でも身体でも、男でも女でもない≪ししむら≫という平仮名の表現が下五≪夕つつじ≫の平仮名≪つつじ≫と違和感なく共鳴し、一句に緊張感が保たれている。佳句である。この句から、連作は一気に異常な世界を描きはじめる。

二句目「この未知は」。≪この未知は≫に腹が立つ。こんなものは見たことがない。しかもそれが≪しんに幼し≫と言う達観。そして≪円座にい≫、つまり円座にいるとき、その場所は自己の想像しだいで、円の終わりにも、円の始まりにもなる。未知は既知であり、既知も未知になる。この句の景を(ひいては、この連作に描かれた景を)想像することは、神の景を想像することと同じように、(そもそも)不可能だ。

三句目「先人や」。ひとつの≪梨≫を前にしたとき≪子宮≫への想像が生まれ、それが≪先人≫という歴史にも接続される。この時間も空間も超える大規模な飛躍。

四句目「おおどか」。この句はこの連作の中にあるからこそイメージがつかめる。この句単体だと、何が≪いまわの雁≫に傾くというのだろう、と疑問が残るが、ここまでの句を読めばわかる。それはひとつの〈思念体〉である超越的存在である。そのような存在が、死に際の雁を優しく包み込み、魂を別の世界に運ぶのだ。

 

ここまで書いて、私は随分おかしなことを言っているかもしれない、すべて誤読かもしれないと思うが、このまま書く。


五句目「かわほりや」。人ではなく人類全体を連想させる≪ヒト≫という言葉を用いて、蝙蝠と人類は、同じく≪刹那の≫の拠り所を持つにすぎない、はかない存在であるという。四句目の超越的存在の視点がこの句でも生かされている。

六句目「狼が」。最初に読んだとき、≪シェア≫とは! と笑ったが、しかし一笑に付すことはできない不気味さがこの句にはある。≪シェア≫と書かれたことに注目したい。狼の≪シェア≫と読まされたとき想像するのは実体のある狼ではなく、インターネット上にデータとして存在する狼の画像や動画である。とすれば、≪しんのやみ≫は電脳世界を指すか。≪しんのやみ≫の≪しん≫からは真・神・深といった単語が連想される。と、この句を読んだが、≪狼≫と≪しんのやみ≫の組み合わせは単なる電脳世界ではなく、もっと我々を脅かすようななにかを演出しているようにも思える。わからない!!

七句目「水生の」の句。この連作のなかでは最もくっきりとした印象を受けた。とはいえ、他の句と同じようにこの句に描かれた世界も異様で、≪ボリウム≫というカタカナ四文字ながら重みと力のある表現が≪焔≫に動きを与えている。≪水生の≫で切って水生植物の圧倒的な生命力を描いた句とるか、≪水生の焔≫で切ってという異様なものを想像するか、そのどちらでもないのか。なんにせよ強引な解釈だが、この句を含め、この連作の句は強引なやりかたでなければ読むことはできない。

 

二句目「この未知は」、三句目「先人や」、六句目「狼が」、七句目「水生の」を高く評価し、四句×5点。そのほか三句は佳句として0点。

 

持ち点10点+20点+0点で、

 

【計】30点


つづく
スポンサーサイト

Comments 1

-  

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

2018/10/08 (Mon) 01:07 | EDIT | REPLY |   

Leave a reply