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愚人正機

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第一回G氏賞選評 その一

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選考について(※募集時に提示していたルールからだいぶ変更しました

 応募作それぞれ、10点の持ち点。選者がムカつく度に減点する。具体的には、

 

駄句は-5点、

駄句を超えてひどいのは-10点、

連作として下手ならさらに-5点。

佳句は0点、

高く評価できる句は+5点、

 

とする。

 

 また、応募時に選者を褒めるメッセージを送ってくれた方には+5点、褒めすぎは-2点とするつもりだったが、募集した当初と違い、私はこの賞を、単なる遊びではないものに、そして、石田波郷新人賞を超える「俳句界の芥川賞」にしようと本気で思うようになったので、そのようなふざけたルールは撤廃することにした。選者の勝手を許していただきたい。(メッセージを送ってくださったみなさん、ありがとうございました。熱いメッセージばかりで、大いに動揺させられました。)

 

 

 最終的に最も点数の高い者を第一回G氏賞の受賞者とした。

 

 まず最初に読んだ印象で点数をつけた。それから、納得のいくまで数日ごとに読み返し点数を調整した。その際に各作品についてにいくつか断片的なメモをしていたので、それを再構成し、選評の形にまとめることにした。

 

1、

『流刑池』 尾内以太

果汁百八パーセント泡水着

眼鏡に体液つゆあけのプラタナス

鴨駅から鶯駅へ牛馬洗う

夾竹桃淋病向きの牝犬は

根茎はじゅくじゅくに咲く蝉時雨

さるすべりノンガスタイプ焼肉吐く

護送車はのうぜんかずら首ちょんぱ

 

 挑戦は認める。しかし、豊かなイメージを持ちつつも、連作としてまとまっていない印象を受けた。表現したいことに無理やり季語をくっつけるから駄句ばかりになる。七句目「護送車は」に至っては完全に意味不明で、意味不明な句としてのおもしろさもない。《首ちょんぱ》という言葉を使うのはいが、あなたはこういう言葉を使いこなすほどのレベルではないだろう。二句目「眼鏡に」の句だけは良い。《体液》は血液として読みたい。何気なく外にある木を見たが、眼鏡のレンズは血液で汚れ、濁っているから、緑もところどころ濁って見える。しかしすぐにその木がつゆあけのプラタナスだと気がつく。体液を流す、あるいは流させるようなただならぬ出来事の後で、しかし作中主体は恐ろしいほどに冷静である。ここに登場する主体は、プラタナスを見ながら何を考えただろうかと妄想させられる一句。

 

 二句目「眼鏡に」は5点、七句目「護送車は」は-10点、それ以外の駄句は一句につき-5点×5句で-25点。連作として未熟なのでさらに-5点。

【計】持ち点10点に5点プラス、40点マイナスで、-25点。

 

2、

HIGH-QUALITY PROFESSIONAL SYSTEM』 三島知浩

吐き出して笑ふ夏休み初日

炎帝の黙つて部活してをりぬ

包帯を巻き合ふプール帰りかな

蚊遣火の窓なほ割れぬ守衛室

灰皿に飴のかけらや夜の秋

転勤のビールは瓶であらざりき

吸ひ殻の唾焦げてゆく熱帯夜

  

広い意味での労働者の視線や生活を詠んだ連作かとも思ったが、しかし、私は、教員や事務職員、守衛といった学校関係者の視点や生活をテーマとした連作ととらえた。タイトルは高度プロフェッショナル制度というより「[高品質]プロフェッショナル制度」という意味にとらえたい。学校職員の退廃的な生活を描くことで、政府の労働者観を皮肉っている連作かと思う。夏休みに吐き、痛ましい学生を眺め、ぼろい守衛室があり、瓶ビールではなく缶ビールを選び、熱帯夜に吸い殻を眺める。この連作に描かれた生活はハイクオリティとはいいがたいものだ。[高度]のまえに[高品質]が先だろというメッセージだろうか。まあそうやって無理に社会と接続しなくても読める連作ではあるが。

減点するほど駄句ではないが、三句目「包帯を」の句に引っかかる。一読し、《包帯》と《プール帰り》が並んでいるのは面白いと思ったが、プール帰りに包帯を巻き合う理由が想像できない。泳いでてどこか痛めたのだろうか。しかし、巻き合うということは少なくとも二人以上が怪我をしている。プール帰りに事故にあったということかと思ったが、それも違うだろう。

四句目「蚊遣火の」の句、《なほ》が効いているところは良いが、描かれているものは凡庸である。七句目「吸い殻の」の句はやや良い。《熱帯夜》の時(とき)のなかに唾が焦げてゆく時間が重なる。しかし、《焦げてゆく》というのが気になる。吸っているときに唾が焦げてゆく感覚は理解できるが、この句は《吸い殻》の句である。景が想像しにくい。

 

三句目「包帯を」、七句目「吸い殻」は0点。他の駄句は-5点×5で-25点。

【計】持ち点10点から25点マイナスで、-15点

3、

『夏の』 羽マサト

もの受け取るとき夏の指触れ合う

覇王樹に花を咲かせる女かな

蝉しぐれの上を基地の輸送機が

草の血を散らし一心に刈りにけり

冷房の温度おまえと言い合いし

真空に掛けてありけり葦簾

向日葵の顔はぎっしりしていたる

 

すっきりとした連作でまとまりはあるが、よく読めばつまらない。良いと思った句がないのはなぜか。連作をまとめることに集中して一句一句を高めることを怠ったからだ。一句目「もの受け取る」の恋愛漫画的な情景は心底ムカつくので減点したいところだが、この句から連作がスタートすること、タイトルの言葉が含まれた句であることから、この句はここにこう書かれてしかるべきものであると判断し、減点はしないし、二句目「覇王樹に」の句の、日常風景(と私は考えたが、この句は砂漠に生えたサボテンに花を咲かせる女性の姿を想像しても面白い。)を生命力にあふれた一句に仕立て上げた技術と、この句で《女》を妻とも娘とも恋人ともせずに《女》と書いたセンス、それから、《覇王樹》を選択したユニークさは評価し、この句も減点しない。三句目「蝉しぐれ」、五句目「冷房の」、七句目「向日葵の」はたいそうつまらなく無個性。このような恥ずかしい句を詠んだご自身を恥じてもらいたい。

 

一句目「もの受け取る」、二句目「覇王樹に」は0点。五句目「冷房の」、七句目「向日葵の」はそれぞれ-10点で二句×-10点で-20点。そのほかの3句はそれぞれ-5で-15点。

【計】持ち点10点に-35点で、-25点。

 

4、

『回収』 松井真吾

目貼りして過激派の髪解かれる

関係者各位列席池普請

返信のなくて四温の初期不良

涅槃図に犠牲フライの放たれる

穴を出てまずは便座を上げる蛇

花守に回収されるスマートフォン

君が代がBGMの草いきれ

 

季語と現代的な言葉の組み合わせで一句を成立させている。こういうのは難しく、技術が必要である。五句目「穴を出て」は《便座を上げる》というところが面白い。人間の生活の中に蛇が紛れ込み、なぜか人間と同じような行動をするという不思議な一句。他の句は技術不足で、無理に季語を入れるのはやめて、ちょうどいい季語がないなら無季で詠んだらいかがだろうか。この連作は、無理やり詠んだという感じがする。どこまで飛躍させるか、季語をどのように活かすべきか考えていただきたい。六句目「花守に」、七句目「君が代が」はあまり良くない。《回収されるスマートフォン》も《君が代がBGM》も安易な措辞だと思う。

 

 五句目「穴を出て」は0点。他は-5点で、六句×-5点で-30点。

【計】持ち点10点に30点マイナスで、-20点。


5、

『母に聞く』 菊池洋勝

かちわりや嚢の余りを舐めさせる
尿の色を問われてビールと答ふ
母に聞く戦後の蚋の記憶かな
余命半年の変態髪洗ふ
股ぐらはチーズの匂ふ小暑かな
ちんちんを見失ひたる大暑かな
語り部の孫の世代や原爆忌

 気になるのは三句目「母に聞く」と七句目「語り部の」。この二つが浮いているから連作として読んだときに抜けているものを感じる。他の句は肉体が見えるような句だが、この二句だけ肉体が消えている。申し訳ないが連作として未熟と判断し、減点させてもらう。一句目「かちわりや」、二句目「尿の色を」は良く、六句目「ちんちんを」は特に良い。一句目の《嚢》はこの連作に置かれると陰嚢を連想してしまうが、騙されてはいけない。これは袋入りのかき氷のことだろう。この連作のなかでこそ活きる句だと思う。二句目「尿の色を」はシンプルさ、素っ気なさ、適度なユーモアが心地良い。六句目は暑気のなかで自己の生命を見つめた句で、しかし《ちんちん》と平仮名で書かれているから雰囲気が重たくなりすぎない。こういうバランス感覚を連作を編むうえでも発揮できないか。

 一句目「かちわりや」、二句目「尿の色を」、は佳句として0点。六句目「ちんちんを」は高く評価し+5点。他の4句は-5点で-20点。連作として甘いのでさらに-5点。

 

持ち点10点+5点から25点をマイナスし、

【計】-10点

6、

『七月の構成』 菅原慎矢

子殺しの罪を担ひて旅始め

靴跡や分娩室に蝿生まる

ほほえみの老爺は海霧に消えゆけり

青き眼の罪を黄色き神父聴く

予言の日書割の秋空が空が

死児のこゑして梟の顔廻り

落椿ここから先は地図になき

 

全体の調子が統一されていて連作としてまとまっている。《老爺》《神父》《予言》《死児》といった硬質な言葉を選び、一句目の《旅始め》ではじまり、七句目の《ここから先は地図になき》で終わることでさらなる広がりを読み手に与え、余韻を残しつつ連作を締めているところがよい。(良くも悪くも)映画的連作である、というのは雑なとらえ方だろうか。詠まれている景が映像として頭に焼き付くものが多い。二句目「靴跡や」は廃墟を詠んだか。分娩室という清潔に保たれるべき空間に蠅という汚らわしいものが生まれる不気味さと濃密な〈生〉のイメージ。《靴跡や》という大胆な表現が句のイメージをより明確にしており、効いている。三句目「ほほえみの」、六句目「死児のこゑ」は逆にイメージが伝わりすぎる気がする。もう少し飛躍させることができるだろう。四句目「青き眼の」はあまりおもしろくない。

 

一句目「子殺しの」、七句目「落椿」は0点。二句目「靴跡や」は+5点。そのほかは-5点で、4×-5で-20点。

【計】持ち点10点に5点加点、しかし20点減点で、-5



つづく

※作者名を載せました。(10月4日編集)
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Comments 3

菅原慎矢  

お疲れ様です。作者名は出さないんですか?受賞者の田中さんはじめ、初見だけど面白い人がいそうなので気になります

2018/10/03 (Wed) 11:27 | EDIT | REPLY |   

高田獄舎  

To 菅原慎矢さん

うっかりしていました。後日修正し、作者名を明らかにします。ご指摘、ありがとうございました。(話は変わりますが、『俳句』10月号の「混沌賛歌」、大笑いしました。)

2018/10/03 (Wed) 18:31 | EDIT | REPLY |   

菅原  

本当はあれがG氏賞応募作のはずだったのですが。そのうち総合誌相手に喧嘩しましょう

2018/10/03 (Wed) 19:05 | EDIT | REPLY |   

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